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生涯最高の資産をいただきました。柳原一成先生ありがとうございます

  • 執筆者の写真: Kaz Saito
    Kaz Saito
  • 2022年2月6日
  • 読了時間: 4分

「男の生徒は取らないんだよ」

というのが、柳原一成先生との最初の会話でした。

2001年の12月、その年に50歳になった僕はこれまでやったことのない体験をしようと柳原料理教室の門をたたきました。


「またなんでうちに来たの?」との問いに、先日のNHKラジオで先生の話を聞き、さらに季節になると庭で鮎を焼いているのを毎年観察ていて、料理を習うならこちらだと決めていた、と返事したところ、

「ああ、あのラジオ。会社も目の前なんだね」


事実、赤坂の教室の道を挟んで目の前のビルに、当時経営していた会社があったんです。

「それなら、特別入れてあげるか」


となり、さらに先生の奥様から、うちは大事なお嬢さんたちをお預かりしているので、

「くれぐれも、くれぐれも間違いのないように」


と念を押された上で、翌年1月より晴れて入校を許されました。

あの時から、今年でまさに20年。


先月の赤坂教室での授業の折りにも、自分の料理教室の献立の相談をさせてもらいました。

「千種焼きね。いい献立だよ。身を取ったがらを軽く潰して土鍋で煮込むとほんと美味しいよ。そうそう、骨は割ったらだめだよ。鳥の骨はとんがるから喉に刺さる」と。

それが最後の会話となりました。


その2週間後、1月29日に柳原一成先生は車の事故で帰らぬ人に。

予期せぬ突然のお別れは悲しみとともに、すさまじい喪失感が伴います。

2004年に眼を患い、両眼の中央視力をなくし、カメラマン、デザイナー、エディターとしての生命線を断たれ、絶望していた僕に、


「それはやっかいだね。よければ料理の稽古は続けなさいよ。うちに来て、美味しいものを一緒に食べれば元気も出るよ」と一成先生。


この言葉が、当時の僕をどれだけ助けてくれたことか。失明直後で、まだ部分視力に慣れておらず、歩くのもやっとの僕でしたが、食べることは変わらず出来ると、教室に通い続けました。そうしているうちに徐々に弱視にも慣れ、以前とほぼ変わらない日常を取り戻すことができたんです。


あの時、自分の人生を諦めず、前向きになれたのは、本当に、本当に先生のおかげとしか言いようがありません。

自分でも料理を教えはじめ、築地から豊洲へと場所は変わりましたが、先生に教えていただいた仲卸さんにも行くようになり、先生のお名前を出すだけで小口の取引もしてもらえたのは本当に助かりました。

「僕たちが教え続けないと和食がホントに遺産になっちゃよ。みんなも回りの人にうちで習ったこととを教えてくださいね」


さらに、

「レシピを教えるんじゃないよ。ちゃんと技術をを伝えてくださいね」

と。


その技術とは、ただ伝承の技ではなく、科学の知識に基づいた理屈なんです。

たとえば煮物に味を入れる際、なぜ砂糖から入れ、塩、醤油などは後にするのか。これは辛み成分の分子の方が小さいので、先に食材に入れてしまうと、大きな砂糖の分子が入りにくくなるからなんです。だから調理はさしすせそなんですね。これこそ、汎用性の効く技術です。


江戸前ではなぜ魚を背からおろすのか。それは江戸が武家社会で、腹から包丁を入れるのは切腹につながるとして避けたところから、背腹おろしの技術ができたとのこと。さらに、お節の関東三つ肴の「黒豆・田作り・数の子」は徳川幕府が「黒くなるまでまめに働き、田を耕し、子作りに励むように」と庶民に教え諭す意味を込めて制定したとことも教えていただきました。


和食は日本の文化を背景に発展してきたものです。こうした歴史から来る理由を知ることも、料理の面白さだと、一成先生の話から学んだ20年間でした。


今、僕の手元にはその20年間分のレシピが残っています。毎年8月の夏休みを除いて11カ月の稽古があったのですから、ざっくり220カ月×5品ですから、なんと1000以上の献立を習ったことになります。

僕にとっての生涯最高の資産。


一成先生の教えを心に刻み込み、これからも和食の技術と伝統を家族そして料理を通じてご縁を結んだ皆さまに伝えていきます。


一成先生のご冥福をお祈りします。

合掌


※写真は2017年5月19日、築地市場での1枚。まだ右も左も分からず、おっかなびっくり市場を歩いていたところ、先生がひょっこりと現れて「なにしれるの?」と。そのとき一緒していたメンバーがわらわらと先生の回りに集まってきて、先生もびっくり。懐かしい、本当に懐かしく貴重な1枚です。

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